▼この記事を読むのにかかる時間/約7分



開幕前。

クラブの経営難で、存続すら危ぶまれた。





V・ファーレン長崎。








しかし、なんとか大きなスポンサーに命を拾われると、その恩を返すかのようにチームの勢いは上昇。



夏を越えても失速する事はなく、その好調ぶりを維持してチームは現在2位。


4連勝中と波に乗り、ホームの試合は滅法強い。





対するジェフは、プレーオフ圏内との勝ち点差は6。



残り試合数を考えても、ここで離されるような事があると苦しい中、苦手とするアウェイ。



絶好調且つ得意のホームで迎え撃つ長崎と、ここに来ていまいち調子の上がらない且つ苦手のアウェイを戦うジェフ。




ジェフ千葉にとっては大きな、とても大きな試練。






守備の時間を長く持ち、耐え忍びつつカウンターとセットプレーで勝利をもぎ取る典型的なJ2仕様の長崎。


先制点を許すと、守りを固められる事は目に見えていた。




「長崎の守備を突き崩す事が出来るのか」



それがこの試合のテーマに思われたが、前半、ジェフはなかなかボールを保持する事が出来ない。
中盤でも小さなミスが重なり、思ったような攻撃が出来ず、簡単にボールをロスト。



苦しい展開が続く中、前半6分にどうしても与えてはならない先制点を許してしまう。








エスナイデル
「..........................................................」



あまりに早い失点だった。
それも、警戒していたセットプレーから。



ヒールに当ててのゴールは恐らく長崎にとってはラッキーな形だったが、質の高いクロスを蹴りこんできていた。


それに、開始早々に与えたフリーキックでは、ジェフのハイラインを潜り抜けられ、⑨ファンマにフリーのヘディングを許していた。








その後も全く反撃の狼煙を上げる事は出来ない。


ジェフは全く良い攻撃の形を作る事が出来ず、シュート0のまま前半アディショナルタイムに突入した。




その時だった。





















ぐきっ!!!






近藤
「.......うっ!!?」







更なるアクシデントに見舞われる。



相手との競り合いで、着地の時に③近藤が足を捻ってしまう。
プレー続行は不可能だった。












ハーフタイム







エスナイデル
「何を恐れていル?何を慎重になっているんダ?このまま行けばもっと恐ろしい事になるゾ!自信を持て!迷うナ!お前たちの力はそんなものでは無いハズダ!」





清武
「(なんとかしてこの試合で俺自身の浮上のきっかけも掴まねぇと...!)」






ヤマト
「(...................コウキ...焦っていないか...?)」






エスナイデル
「ヤマト!!アサヒ!!」






2人
『...はい!!』






エスナイデル
「少しばかり中盤でのロストが目立ツ。向こうの網にも少しかかっているようダ。ペースを取り戻すまで下がってボールを受けてリズムを作ってくレ。」






ヤマト
「わかりました。」




アサヒ
「やってみます。」






真っすぐの瞳でそう頷くと、二人で話し合いながらピッチへと向かった。






エスナイデル
「....................................やはりこのチームは精神的にまだ未熟すぎる......」






前半戦。

このハーフタイムを迎えるまで自分たちで建て直す事が出来なかった。

自分たちで考え、困難を打開していく事が出来ない様に、少し頭を悩ませているようだった。











後半戦Kick off






ケガで離脱した③近藤に代わって入ったのは⑰大久保。





そして後半に入ると、前半とは打って変わってジェフがギアを上げる。


一人一人の判断のスピードが上がり、テンポよくパスを繋いでいく。

⑩町田と⑱矢田が下がりながらボールを引き出す事で、後方のビルドアップで落ち着きどころを得る事が出来ていた。




この2人が中でボールを出し入れする事で相手が中央に収縮する。




ボムヨン
「よし、今だ!!」



ここから、サイドチェンジが見事に決まるようになる。





怒涛の攻撃にジェフが長崎ゴールに迫る。






相手エリア内で見事なターンから⑧清武がノーステップでシュートを放つ。



その後もフリーキックから⑧清武が直接狙うと、これはゴールキーパーがなんとかコーナーへ凌ぐ。





そして57分。





この流れから得たコーナーキック、⑧清武がショートコーナーを選択。





そこに降りてきたのは⑬為田!







為田
「ほいよっと!!」




これをダイレクトでバイタルエリアに流す。



そこへ走りこんだのは⑱矢田!!






アサヒ
「.....................スゲー良いボールじゃんか!!」












ガシュ!!






ダイレクトでこのボールを蹴りこむと、シュートは綺麗にサイドネットへ吸い込まれていった。












実況
「決まったぁぁぁぁぁぁ!!!ジェフ千葉が同点弾!!セットプレーで失った点はセットプレーで取り返す!!前節に続き⑱矢田旭の見事なゴールゥゥゥ!!!」








為田
「やりぃ!!」






ヤマト
「やったアサヒ!!またダイレクトかよ!!」









矢田
「よっしゃ!このまま逆転まで行こう!!」









後半開始早々からの勢いそのままに得点を奪って見せたジェフ。


俄然勢いは増していった。







何度もゴールに迫る。







何度も。






何度も。







しかしキーパーに阻まれ、相手のブロックに阻まれ、すんでの所で得点が奪えない。







エスナイデル
「..................................」





③近藤に代わって⑰大久保。
㉚溝渕に代わって⑥山本。


交代枠はあと一つ残っていた。




しかし明らかにジェフのペース。



それ故、エスナイデルも最後のカードを切らずにいた。






そして時計は後半アディショナルタイム。


提示された時間は6分。






誰一人諦めてはいなかった。





死に物狂いで闘っていた。









引き分けで良しとは誰も考えてはいなかった。






しかし、それが焦りとなり、プレーが雑にもなる。







最後まで攻め立てるものの、仕留め切る事が出来ない。







もうすぐアディショナルタイムも終わろうかという所、自陣コーナーキックへ向かうボールを㊲ボムヨンが必死に追いかける。








ボムヨン
「はぁ...はぁ...はぁ.....!!!」








ギリギリの所で足を伸ばす。








ボムヨン
「届けぇーーー!!!」











パシッ!!










なんとか追いつき、スローインに逃れる。






ヤマト
「ナイス!!!ボム!!!よし、これを凌いでカウンターで仕留めるぞ...!!」









ここでもまだ得点を狙っていた。

勝ち点3を追いかけていた。




勝ち点1の事も、勝ち点0の事も頭には無かった。














だが、突き付けられた現実は、あまりに無情だった。
















自分たちのゴールの中に転がっているボールを、⑩町田はただ茫然と見つめていた。
















ヤマト
「................................どうして.........」










エスナイデル
「(.....................ここで受けたダメージは大きク......このチームに巣食う闇もまた深イ..........)」




唇を噛み、頭を抱えるかのように手で目を覆った。









ヤマト
「......ちくしょう...............」











ヤマト
「........ちくしょうちくしょうちくしょうちくしょうちくしょうちくしょう.......!」

















自分の背中に付けられた番号と、不甲斐なさと、サポーターへの申し訳なさと。







いろんな感情が入り乱れて.....



















ただ天を仰いだ。


















ヤマト
「どうしてだよぉぉぉぉーーーーーーー!!!!!」
















Fin



 ※選手のセリフ、心情は全て妄想です。フィクションです。
試合の流れ自体はノンフィクションですが、何卒ご留意下さい。