▼この記事を読むのにかかる時間/約6分
船山
「もう一度戦おう。」
ハーフタイムのロッカールーム。
珍しく先頭切ってチームに声をかけたのは船山貴之だった。
ラリベイ
「その通りだタカユキ。
ボクらは何度挫けそうになっても、何度だって立ち上がらなければならなイ。
ボクらが戦っている世界はそういう世界ダ。」
そう話す⑨ラリベイも、そして⑪船山もユニフォームは汗でびっしょりだ。
前半から相当ファイトしている。
それでももう一度戦おうと。
最前線で走り、戦い続ける2人が改めてチームに問いかける。
山本
「(旬...悔しいだろうな)」
途中交代で入った⑥山本は、前半でベンチに下がった㉖岡野を気にかけていた。
キャプテンの⑨ラリベイがしっかりと声をかけに寄っていたが、ショックでないわけがない。
一方、この男も思いつめたような表情をしていた。
熊谷
「...........................................」
チームに残るという大きな決断。
あっさりと断ったように報じられてはいるが、本人の中ではその決断の重みが日に日に増していくのだった。
熊谷
「(ここから先、この決断が後悔にならないようにしないと...
決断した過去がどんなものになるかは、これからの未来にかかってる...!)」
その様子を、横目で佐藤勇人が見つめていた。
両チームのスコアに1が並ぶ中、後半に向かう選手たちがピッチに姿を現す。
千種
「ねー酒々井...ジェフはどうしたら良いの...?」
自分の太ももの下に手を通し、見上げるように隣の酒々井へと問いかける。
酒々井
「そうだな...
エスナイデルのジェフが相手を圧倒している時ってどんな時だか、思い出せる?」
千種は腕を組んでうーん...と考える。
しかし、考えているウチに後半開始のホイッスルが鳴り響いた。
ピーーーーーーーッ!!!
ハッと気を取り直すと、千種は考える事を辞めて試合に夢中になり始めた。
やれやれと、いつもの事のように酒々井はそっとピッチ上に視線を戻す。
後半、果たしてジェフに改善の兆しは見えるのか。
だが50分。
その時はいきなり訪れた。
左サイドで獲得したフリーキック。
⑪船山がボールをセットすると、審判とのやり取りの中に余裕とも感じられる表情が見て取れた。
審判と積極的にコミュニケーションを取っている。
そして、ボールをセットすると、中で動き回る選手たちに細かく指示を出す。
その後方では、同じようにエスナイデルが大声で指示を出している。
酒々井
「(.................なんだ...?何か狙ってるな....)」
意を決して助走に入った⑪船山の目は、明らかに自信に満ち溢れていた。
ザッ!
⑪船山が蹴り込んだクロスが、ゴール前中央に向かう!
ガッ!!
小島
「ニアサイドのストーンが邪魔なんだ...その一山さえ超えればこっちには...!」
中央のポジションの取り合いの中で、ニアで跳ね返すべく構えたDFに体を寄せて⑭小島がブロック!
小島
「俺は競っても勝てないからな...俺に出来る仕事を精一杯やり切るだけさ。」
ドガァ!!!!!
ニアサイドの一山を越えた所に落ちてきたボール。
頭一つ分抜け出た④エベルトが、強烈なヘディングを叩き込んだ!
解説
「た...高い!!」
実況
「ゴォォォォォォォォォォォル!!!!
後半開始して間もなくの所!
またもジェフがセットプレーからの一撃ぃ!!」
千種
「おぉーーーーーー!!
凄ーーい!エベルトー!!」
狙い通りのクロスを放り込んだ⑪船山は監督の下へ駆け寄った。
早々の逆転劇にフクアリのボルテージも上がっていく!
得点後すぐ。
53分。
相手に襲い掛かるようなプレスが機能し始める。
前線へのボールに対するセカンドボールへの反応。
敵陣でボールを失った瞬間のプレス。
そして後方から前に出ながらボールをかすめ取る推進力。
酒々井
「そう...それだ!」
スタンドで見つめる酒々井が目を輝かせる。
酒々井
「ジェフの魅力は"波状攻撃"。
前方にボールが送られる。
ラリベイが競り勝つ。
船山がすぐ近くに待機している。
為田がスピードに乗る。
後方から押し上げる。
フィニッシュに持ち込む。
ボールを奪われたらすぐさまプレスをかける。
相手が前方に蹴り出す。
守備陣がやや後ろからスタートして、相手の死角からボールをかすめ取る。
その推進力のまま、再び二次攻撃、三次攻撃へと繋げる。
ジェフが相手を圧倒している時はこのサイクルが成立している時だよ。」
そして、それを成立させているのが、サイドの裏への飛び出しであり、それが相手のラインを引き下げているんだけど...
と、酒々井は付け加えた。
55分。
良い流れのまま獲得した右コーナーキック。
キッカーは⑪船山。
船山
「(今日は本当に調子が良いなぁ...どんなボールだって蹴れるイメージだ。)」
その言葉通り、ニアサイドに蹴り込んだボールは⑤増嶋の頭にドンピシャ。
タイミングもバッチリ合ったヘディングはゴールのニア上に突き刺さった!
増嶋
「っし!!!」
実況
「なんと三度セットプレー!!
10分間にセットプレーから3つのゴールゲットー!!!」
3-1
勝利を手繰り寄せる2点差。
試合の流れは完全にジェフに傾いてきた。
リズムも良い。
70分
㉕茶島 → ㉑サリーナス
システムを4-3-3へ変更。
3トップに為田、ラリベイ、船山。
インサイドにサリーナスと小島。
アンカーに熊谷。
だが、ここからサイドを崩され始める。
それは、ここで始まった事というよりは、前半から続いていた事だった。
その綻びが、再び露わになり始めた。
そして、金沢が前半から狙い続けた攻撃だった。
75分
オフサイドを取ろうとラインを上げに行った所、タイミングがズレて入れ替わるように抜け出される。
そのまま左サイドを独走されて、中央に送られたグラウンダーのクロスに足を伸ばした④エベルトがオウンゴール。
その僅か2分後。
77分
右サイドのスペースを突かれると、アーリークロスに合わされて失点。
あっという間に試合を振り出しに戻されてしまう。
小島
「ぜぇ...ぜぇ...どうして.......」
選手たちも流石にショックを隠し切れなかった。
自分たちの流れであった時には感じられなかった疲れが、どっと身体に襲い掛かる。
千種
「酒々井ー!!
なんで、どうして!?」
酒々井
「システムのせいとは言い切れないが...
アンカーのシステムになった事で、サイドへのカバーリングが効きづらくなったのは間違いなくあるだろうな...」
なんとか勝ち点3を目指して攻撃に出るジェフ。
しかし身体がついていかない。
89分
満身創痍のジェフはボールについていけなくなる。
ゴール前でのシュートになんとかスライディングで食らいつく。
それでも枠に向かうボールをGK優也がかき出す!
優也
「今ここで俺がやられるわけには.......こんな時こそチームを支えねぇと...!」
続くコーナーキックも、ファーサイドに流れたボールに体を投げ出し、なんとかゴールを死守するGK優也。
しかし。
後半アディショナルタイムに許したコーナーキック。
中央のポジションの取り合いからファールの判定。
主審がペナルティスポットを指さす。
GK優也にかかる期待もむなしく、きっちり決められてしまう。
ピッピッピーーーーーーー!!!!
試合終了
3-4
終了のホイッスルの瞬間、ジェフの選手たちはがっくりと肩を落とし、そして天を仰いだ。
もう体力的にも精神的にも、なかなか体は動かなかった。
千種
「.............苦しそう。
でもね、死んでない。
折れてない。
だから...苦しいけどまだ.....きっと戦える。」
選手を見ているのか。
もっと遠くを見ているのか。
強い眼差しで千種は呟く。
酒々井
「(まぁ........この子が言うのならきっとそうなんだろうねぇ...)」
ゴール裏への挨拶を終え、ロッカールームへ引き上げる選手たちの表情は固かった。
悲壮感にも近いものが漂ってはいたが、それだけではなかった。
気力も体力も。
全てをピッチに置いてきたからだった。
それだけ選手たちは闘っていた。
だからこそ試合を終えた選手たちには何も残されていなかった。
酒々井
「(懐かしいな...あの感じ。
それで良い。今はそれで良いんだ。
今は顔なんて上げなくて良い。それだけ闘ったんだろ。
気持ちを切り替えて、次節の時にまた顔が上がっていればそれで良い。)」
⑤増嶋は、涙を拭ってロッカールームへと引き上げていった。
Fin
※選手のセリフ、心情は全て妄想です。フィクションです。
試合の流れ自体はノンフィクションですが、何卒ご留意下さい。
船山
「もう一度戦おう。」
ハーフタイムのロッカールーム。
珍しく先頭切ってチームに声をかけたのは船山貴之だった。
ラリベイ
「その通りだタカユキ。
ボクらは何度挫けそうになっても、何度だって立ち上がらなければならなイ。
ボクらが戦っている世界はそういう世界ダ。」
そう話す⑨ラリベイも、そして⑪船山もユニフォームは汗でびっしょりだ。
前半から相当ファイトしている。
それでももう一度戦おうと。
最前線で走り、戦い続ける2人が改めてチームに問いかける。
山本
「(旬...悔しいだろうな)」
途中交代で入った⑥山本は、前半でベンチに下がった㉖岡野を気にかけていた。
キャプテンの⑨ラリベイがしっかりと声をかけに寄っていたが、ショックでないわけがない。
一方、この男も思いつめたような表情をしていた。
熊谷
「...........................................」
チームに残るという大きな決断。
あっさりと断ったように報じられてはいるが、本人の中ではその決断の重みが日に日に増していくのだった。
熊谷
「(ここから先、この決断が後悔にならないようにしないと...
決断した過去がどんなものになるかは、これからの未来にかかってる...!)」
その様子を、横目で佐藤勇人が見つめていた。
両チームのスコアに1が並ぶ中、後半に向かう選手たちがピッチに姿を現す。
千種
「ねー酒々井...ジェフはどうしたら良いの...?」
自分の太ももの下に手を通し、見上げるように隣の酒々井へと問いかける。
酒々井
「そうだな...
エスナイデルのジェフが相手を圧倒している時ってどんな時だか、思い出せる?」
千種は腕を組んでうーん...と考える。
しかし、考えているウチに後半開始のホイッスルが鳴り響いた。
ピーーーーーーーッ!!!
ハッと気を取り直すと、千種は考える事を辞めて試合に夢中になり始めた。
やれやれと、いつもの事のように酒々井はそっとピッチ上に視線を戻す。
後半、果たしてジェフに改善の兆しは見えるのか。
だが50分。
その時はいきなり訪れた。
左サイドで獲得したフリーキック。
⑪船山がボールをセットすると、審判とのやり取りの中に余裕とも感じられる表情が見て取れた。
審判と積極的にコミュニケーションを取っている。
そして、ボールをセットすると、中で動き回る選手たちに細かく指示を出す。
その後方では、同じようにエスナイデルが大声で指示を出している。
酒々井
「(.................なんだ...?何か狙ってるな....)」
意を決して助走に入った⑪船山の目は、明らかに自信に満ち溢れていた。
ザッ!
⑪船山が蹴り込んだクロスが、ゴール前中央に向かう!
ガッ!!
小島
「ニアサイドのストーンが邪魔なんだ...その一山さえ超えればこっちには...!」
中央のポジションの取り合いの中で、ニアで跳ね返すべく構えたDFに体を寄せて⑭小島がブロック!
小島
「俺は競っても勝てないからな...俺に出来る仕事を精一杯やり切るだけさ。」
ドガァ!!!!!
ニアサイドの一山を越えた所に落ちてきたボール。
頭一つ分抜け出た④エベルトが、強烈なヘディングを叩き込んだ!
解説
「た...高い!!」
実況
「ゴォォォォォォォォォォォル!!!!
後半開始して間もなくの所!
またもジェフがセットプレーからの一撃ぃ!!」
千種
「おぉーーーーーー!!
凄ーーい!エベルトー!!」
狙い通りのクロスを放り込んだ⑪船山は監督の下へ駆け寄った。
早々の逆転劇にフクアリのボルテージも上がっていく!
得点後すぐ。
53分。
相手に襲い掛かるようなプレスが機能し始める。
前線へのボールに対するセカンドボールへの反応。
敵陣でボールを失った瞬間のプレス。
そして後方から前に出ながらボールをかすめ取る推進力。
酒々井
「そう...それだ!」
スタンドで見つめる酒々井が目を輝かせる。
酒々井
「ジェフの魅力は"波状攻撃"。
前方にボールが送られる。
ラリベイが競り勝つ。
船山がすぐ近くに待機している。
為田がスピードに乗る。
後方から押し上げる。
フィニッシュに持ち込む。
ボールを奪われたらすぐさまプレスをかける。
相手が前方に蹴り出す。
守備陣がやや後ろからスタートして、相手の死角からボールをかすめ取る。
その推進力のまま、再び二次攻撃、三次攻撃へと繋げる。
ジェフが相手を圧倒している時はこのサイクルが成立している時だよ。」
そして、それを成立させているのが、サイドの裏への飛び出しであり、それが相手のラインを引き下げているんだけど...
と、酒々井は付け加えた。
55分。
良い流れのまま獲得した右コーナーキック。
キッカーは⑪船山。
船山
「(今日は本当に調子が良いなぁ...どんなボールだって蹴れるイメージだ。)」
その言葉通り、ニアサイドに蹴り込んだボールは⑤増嶋の頭にドンピシャ。
タイミングもバッチリ合ったヘディングはゴールのニア上に突き刺さった!
増嶋
「っし!!!」
実況
「なんと三度セットプレー!!
10分間にセットプレーから3つのゴールゲットー!!!」
3-1
勝利を手繰り寄せる2点差。
試合の流れは完全にジェフに傾いてきた。
リズムも良い。
70分
㉕茶島 → ㉑サリーナス
システムを4-3-3へ変更。
3トップに為田、ラリベイ、船山。
インサイドにサリーナスと小島。
アンカーに熊谷。
だが、ここからサイドを崩され始める。
それは、ここで始まった事というよりは、前半から続いていた事だった。
その綻びが、再び露わになり始めた。
そして、金沢が前半から狙い続けた攻撃だった。
75分
オフサイドを取ろうとラインを上げに行った所、タイミングがズレて入れ替わるように抜け出される。
そのまま左サイドを独走されて、中央に送られたグラウンダーのクロスに足を伸ばした④エベルトがオウンゴール。
その僅か2分後。
77分
右サイドのスペースを突かれると、アーリークロスに合わされて失点。
あっという間に試合を振り出しに戻されてしまう。
小島
「ぜぇ...ぜぇ...どうして.......」
選手たちも流石にショックを隠し切れなかった。
自分たちの流れであった時には感じられなかった疲れが、どっと身体に襲い掛かる。
千種
「酒々井ー!!
なんで、どうして!?」
酒々井
「システムのせいとは言い切れないが...
アンカーのシステムになった事で、サイドへのカバーリングが効きづらくなったのは間違いなくあるだろうな...」
なんとか勝ち点3を目指して攻撃に出るジェフ。
しかし身体がついていかない。
89分
満身創痍のジェフはボールについていけなくなる。
ゴール前でのシュートになんとかスライディングで食らいつく。
それでも枠に向かうボールをGK優也がかき出す!
優也
「今ここで俺がやられるわけには.......こんな時こそチームを支えねぇと...!」
続くコーナーキックも、ファーサイドに流れたボールに体を投げ出し、なんとかゴールを死守するGK優也。
しかし。
後半アディショナルタイムに許したコーナーキック。
中央のポジションの取り合いからファールの判定。
主審がペナルティスポットを指さす。
GK優也にかかる期待もむなしく、きっちり決められてしまう。
ピッピッピーーーーーーー!!!!
試合終了
3-4
終了のホイッスルの瞬間、ジェフの選手たちはがっくりと肩を落とし、そして天を仰いだ。
もう体力的にも精神的にも、なかなか体は動かなかった。
千種
「.............苦しそう。
でもね、死んでない。
折れてない。
だから...苦しいけどまだ.....きっと戦える。」
選手を見ているのか。
もっと遠くを見ているのか。
強い眼差しで千種は呟く。
酒々井
「(まぁ........この子が言うのならきっとそうなんだろうねぇ...)」
ゴール裏への挨拶を終え、ロッカールームへ引き上げる選手たちの表情は固かった。
悲壮感にも近いものが漂ってはいたが、それだけではなかった。
気力も体力も。
全てをピッチに置いてきたからだった。
それだけ選手たちは闘っていた。
だからこそ試合を終えた選手たちには何も残されていなかった。
酒々井
「(懐かしいな...あの感じ。
それで良い。今はそれで良いんだ。
今は顔なんて上げなくて良い。それだけ闘ったんだろ。
気持ちを切り替えて、次節の時にまた顔が上がっていればそれで良い。)」
⑤増嶋は、涙を拭ってロッカールームへと引き上げていった。
Fin
※選手のセリフ、心情は全て妄想です。フィクションです。
試合の流れ自体はノンフィクションですが、何卒ご留意下さい。
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