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前半、先制されるも僅か5分で追いついたジェフ。
精神的に重くのしかかる前に素早く追いつけたのは大きかった。

ハーフタイムでチームとして確認した事は多くは無かった。
全体を通してのリズムは悪くない事。
繰り返す我慢と、最後の最後まで戦いきる精神的強さ。

チーム全体で深呼吸をした感じに近かった。



エスナイデル
「...こんな所で仲間たちの戦いを見るのは苦しいナ。
私があそこにいてやれないなんテ...
しかし、練習で準備はしているんダ。
あとは、自分たちを信じるだけだゾ...!」


エスナイデルはスタジアムのVIPルームから静かに見守る。

そして千種はピッチで円陣を解いたジェフの選手たちを見つめて、柔らかな表情を浮かべている。



千種
「"信じる"。
きっとこれがジェフの合言葉。
昨シーズンの最高潮の時期はこれがよく出ていたもんね。」





酒々井
「............??」



酒々井は千種の言っている事がよくわかっていなかった。
昨シーズンも毎ホームゲームを千種と見ていたが、何を指しているのかよくわかっていなかった。




千種
「"アイツならきっとパスをくれる"。
"アイツならきっと防いでくれる"。
"絶対走ってくれている"
"自分たちのサッカーは強い"
苦しい状況でも、体力が空っぽでも、自分を、仲間を、そして勝利を。
信じる事でジェフは立っていられた。
だから、ちー達も信じなくちゃ。
願うのとは違うの。
信じなくちゃ。」



時々、千種は核心をついたような事を言う。
"人の感情を読み取る天才"であるこの子だからこそ感じ取れる事なんだろうと。
酒々井は隣で聞きながら、そんな千種の言葉を信じてみようと思ったのだった。




47分
甲府GKのフィードをFWがフリックした所を完全に抜け出され、GKロドリゲスとの1対1の局面を作られてしまうが、これはボール1つ分枠を逸れた。


ヒヤリとしたシーンから始まった後半だったが、それはこのシーンに限らなかった。



50分

右サイドでのミスを奪われると、慌ててジェフがボールに向かった所、中央がら空きのバイタルエリアに横パスが通る...!









熊谷
「...マズイ!!!」








完全にフリー!
シュートブロックも間に合わないような状況だった!













ズドン!!!














強烈なシュートがジェフのゴールへ向かう!


ロドリゲス
「.............クッ!!!」










ものすごいスピードのシュートはGKロドリゲスの反応を上回り、ゴールへ向かって抜けていった。



















バチィ!!!!















悔しさに歯を食いしばったGKロドリゲスがゴールに目をやると、ゴールの中にボールは無く、そこには⑮溝渕が横たわっていた。



溝渕
「はぁ...はぁ...はぁ........間に合った...!」






千種
「ミゾーーーーーー!!!!」



実況
「と、止めたぁぁぁぁ!!!
一瞬、ゴールを確信しましたが、なんと溝渕がゴールカバーに入っていた!ビッグセーブー!!!!」



バイタルエリアに横パスが通る瞬間、ゴールカバーに向かってすぐさま走り出していたのだった。
得点を決めるのに劣らないビッグプレーに、大きなコールが沸き起こる!



酒々井
「(正直、溝渕は特別な上手さがある選手でもなければ、スピードに秀でているわけでもない。
クロスもそこそこで、特徴という特徴が無い選手だ。

...でも、魂がある。
愚直にアップダウンを繰り返し、クロスを上げ切ろうとする。
そして、基本を忠実に守り、最後の最後はゴールカバーに走っていた。
これはそう簡単に真似出来る事じゃぁ無い。)」






後半の立ち上がりを甲府に攻め込まれたジェフは、なんとか反撃の糸口を掴みたい。

58分
㉕茶島 → ⑳矢田



矢田
「久しぶりだ...
俺が抜けてる間にチームの調子が下がっていたから、少し責任を感じてた...
なんとかここから勝たせてやりたい。」




68分
⑧清武 → ⑬為田



為田
「.................おれの相手は...
あぁ。前半からかなりいきってたあの㉞番か。
あーゆー熱血君が一番得意なんだよなー。」





飄々とした表情でピッチに入った⑬為田。
しかし、さすがの⑬為田も少しばかりナーバスになっていた。

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為田
「...自分たちがやっている事は間違っていないと、言い聞かせるしかないッス。」
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個別取材で、⑬為田はそう答えていた。
こうも上手く行かないと、疑いたくもなってくる。

今の自分たちのやり方が良くないのか。
普通にやれば勝てるんじゃないか。

周囲の雑音も聞こえてくる。


そんな中で、自分自身を信じる事すら不安定になっていった。



70分が過ぎると、さすがに足が止まり始めた。
全員が肩で息をしているのがわかる。

最前線の⑨ラリベイも、倒れそうなくらいに疲労していた。



酒々井
「さすがに...しんどいね。。
この夏場で、しかもミッドウィーク。
ボールを奪っても苦し紛れのクリアが精いっぱいだ。
マイボールに出来てない。」





徐々に自陣で過ごす時間が長くなり始める。
しかし。












この一番苦しい時間帯でも、㉒工藤の笑顔は消えなかった。

チームを鼓舞し続ける。





工藤
「ぜぇ...ぜぇ....キツイなぁ。
でも..........ここを絶えないともっとキツイ...
キツイ事を嫌がるな。
キツイ状況の中にこそ、光があると思え......!」



全身で息をしているが、どこか楽しそうにも思えた。
無理に作っている笑顔ではなかった。



考えて走る。
死ぬほど走る。
でも.....













工藤
「....................走りすぎて死ぬ事は無いさ。」







82分


敵陣でボールを失った所、すぐさま追いかけるも足がおぼつかないジェフ。
しかし、それは甲府も同じだった。


ジェフの気迫に圧されたか、タッチが長くなった所を㉒工藤が逃さなかった。


すぐさまボールを奪い返すと、ノールックで右サイドでフリーの⑳矢田へ送る!











矢田
「.........................そこか!!」






ぱすっ...







右足で上げたクロス。
ふわりとGKの頭上を越えてファーサイドに向かった先には、フリーで走り込んだ⑬為田が待っていた。

クロスに対して飛び込んだ事自体が珍しかった。
あまりクロスを中央で待ち構える選手ではない。



しかし、今期無得点の男は、無意識にゴールへ向かっていた。



緩いクロスに対して相手DFが体を寄せる。
上背の無い⑬為田にとっては、選択肢の少ない状況になった。







トンッ......









目一杯飛ぶしかなかった。
狙ったわけではない。
とにかく何でも良いからゴールに入れと。


願うように頭に当てたボールが。




















ゴールネットを揺らした。
















ゴール裏の爆発と共に、ベンチに向かって走り出した。




実況
「ゴォォォォォォォォォルーーーーーーーー!!!!
為田が値千金の逆転弾!!後半残り10分でジェフがリードを奪うーーー!!!!」




控え選手たちの下へ向かう⑬為田を全員が迎え入れる!




勇人
「おいおいおい!!やりやがったなこのヤロ!!!!」


優也
「なんだそのへなちょこシュートは!!最高かよ!!」


山本
「いつも小生意気なドリブルしかしないくせに!!」



コーチ陣もベンチを飛び出して全員が抱き合う。
ゴール裏も知らない人同士がハイタッチをかわしている。

まるで、この試合で何かを勝ち得たかのような喜びようだ。










千種
「..............うん。
ジェフっぽいよね。
ジェフはこうあって欲しいと思う!」



感無量。
といった表情で千種はつぶやくと、酒々井に向かってニコッと微笑み、「イェイ」とハイタッチした。



85分
⑮溝渕 → ⑤増嶋





途中から足を痛めていた⑮溝渕を下げ、このリードを守り切る態勢を整える。

一番苦しいこの時間帯でも㉒工藤はボールを受け続けた。



工藤
「ぜぇ...ぜぇ............ここでどれだけ冷静になれるかだ...
単純に跳ね返すだけだと相手の思うつぼだ。」


ボールを受けては捌き、そして全体を押し上げる時間を作り出す。
そして、その動きに、この時間帯でついてこれる選手が近くにいた。




船山
「ぜぇ.....ぜぇ.......ぜぇ.........」

ボールを引き出し、縦に運び、サイドでボールをキープして時間を稼ぐ。


工藤
「ぜぇ.....ぜぇ......
(相変わらずとんでもないスタミナだな。
あんだけ前線でボール追いかけまわして、まだ最前線に顔を出せるのか...)」






死力を尽くして耐え忍び、そこでも㉒工藤は微笑んだ。












ピッピッピーーーーーーー!!!!!






終了の瞬間、安堵と体力の限界を迎え、選手たちはピッチに崩れていった。
㉒工藤も同じだった。

仰向けに倒れ込み、両拳を握りしめた。



呼吸を整えるべく、しばらくそのまま動かなかったが、息を大きく吐き出す。













工藤
「はぁ...はぁ....
フクアリで90分間戦って、この疲労感.........

はは、疲れたなぁ。」

































その表情は、どこか懐かしさを帯びていた。










Fin

※選手のセリフ、心情は全て妄想です。フィクションです。
試合の流れ自体はノンフィクションですが、何卒ご留意下さい。











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